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盗まれたビットコインの財布が「落書きの壁」になった
盗まれたビットコインのアドレスが公開の掲示板になった
2026年7月30日に最初に検知されたコールドカード(Coldcard)のハードウェアウォレット侵害のあと、攻撃者が管理するとされるビットコインアドレスに、見知らぬ人々が書き込みを残し始めた。コインデスク(CoinDesk)によると、このアドレスは約3600万ドル相当のビットコインを保有しており、7月30日以降に複数の入金があって、その多くに短い文章が添えられていた。ギャラクシー・リサーチ(Galaxy Research)をはじめとするブロックチェーン分析者が、このアドレスを攻撃者が管理するもののひとつと特定している。コインデスクは、この侵害による確認済みの被害額が1億ドルを超えたと伝えている。
他人の財布にどうやって書き込むのか
書き込みはOP_RETURNというビットコインの機能を使って行われる。コインデスクの説明によれば、OP_RETURNは誰でも取引に短い文字列を添付できる機能で、その文字列は送金の記録とともにブロックチェーンに恒久的にタイムスタンプ付きで刻まれる。本来は開発者が文書に時刻を記録したり小さな証明を埋め込んだりする技術的な用途のものだが、個人的なメモを残すのにも使える。
重要なのは、無料ではないという点だ。コインデスクは、それぞれの書き込みに「わずかではあるが実際の送金」が伴うと伝えている。この面に何かを書くには、自分の金を持ち去った相手に、さらに少しだけ金を送らなければならない。
壁に残された文章
オンチェーン追跡サービスのアーカム・インテリジェンス(Arkham Intelligence)が確認した書き込みは、性格がばらばらだ。コインデスクが紹介したものには次のようなものがある。
- 「You stole, please return some.」盗んだのだから一部でも返してほしい、という直接の訴え。
- 「Please Please Please」アドレスひとつとともに残された。
- 「80% of my 5 BTC」自分の持ち分の8割を返すよう求めるもの。
- 「I clean btc, do kyc and cashout. I take 10%」テレグラムのアカウント付きで残された資金洗浄の売り込み。
- 「1 BTC for my Bitcoin journey」ハッキングとは無関係に、注目の集まるアドレスの前で見知らぬ相手に金を無心するもの。
- 「Monday owns my day / five plus ten bitcoin stranger / let me call in free」詩のように読める一文。
コインデスクは、これらが実際の被害者によるものか、同情の波に便乗した人々によるものかを確かめるのは難しいとしている。
これが落書きに見える理由
このアドレスに積み上がった文章は、いくつかの点で壁の書き込みとよく似ている。
第一に、自分のものではない面に書いている。書いている人は誰もそのアドレスの持ち主ではなく、許可も取っていない。
第二に、一人に語りかけながら全員に読まれる。書き込みは盗んだ相手に宛てられているが、実際の読み手はチェーンを覗く不特定多数だ。路上の壁に残される短い文章も、たいていはそのように働く。
第三に、費用がかかる。路上ではスプレー代と捕まる危険が代価になる。ここでは手数料と少額の送金がそれにあたる。何の代価もなく書ける面に、こういう文章がこのように積み上がることはない。
第四に、混ざる。切実な訴えと商売の広告、無関係な無心、そして出所のわからない詩がひとつの場所に並ぶ。人がよく知っている壁の前で実際に起きているのは、まさにそういうことだ。
壁と決定的に違うところ
似ている点よりも、違う点のほうが重要かもしれない。壁は消される。自治体が塗りつぶし、所有者がこすり落とし、次の誰かがその上に書く。路上の文字は消えることを前提に存在していて、だからこそ写真に残すことに意味が生まれる。
ブロックチェーンに書かれた文字は塗り重ねられない。コインデスクはOP_RETURNの書き込みが取引とともに恒久的にタイムスタンプされると説明している。誰も何も取り除けない面で、文章が長い時間をかけてどう積み上がっていくのかを、まだ誰も見届けたことがない。
前例はあるが、形が違う
コインデスクは2020年のルビアン(LuBian)マイニングプール盗難事件を前例として挙げている。12万7000BTC以上が消えたこの事件では、プールの運営者がOP_RETURNの書き込みで攻撃者に直接連絡を取り、返還交渉を試みた。それらの書き込みはのちに、どのウォレットがルビアンのもので、どれが攻撃者のものかを分析者が確認する材料のひとつになった。
今回違うのは、書いている主体だ。ひとつの組織が交渉のために残した記録ではなく、互いに面識のない大勢が、それぞれの理由で同じアドレスに文章を貼りつけている。
同じことは現実の壁でも起きている
ある壁面が知られるようになると、その前には性格の違う書き込みが幾重にも積み上がる。このビットコインアドレスで起きているのは、その過程が異常に速く、しかも取り除けない形で進んでいる様子だ。
街の壁で同じことがどう進むのかは、Wallscapeの地図とフィードに残された記録で見ることができる。