グラフィティニュース
壁画は消える。ストリートアートの記録の取り方
ストリートアートは、残らないことを前提に作られる。数年もつ壁もあるが、街にある作品の大半はひと季節を越えない。そして消えたあとに残る唯一の版は、誰かが撮った写真である。記録することが、そのまま保存になる。
壁の絵はなぜ早く消えるのか
- 消去(バフィング):自治体や建物の所有者が塗りつぶすか、高圧洗浄で落とす。最も多い原因である。
- 天候:スプレー塗料は紫外線で色が抜け、煉瓦やコンクリートの表面では湿気で塗膜が浮く。
- 再開発:描かれるのは古い建物が多く、古い建物はいずれ解体される。
- 上描き:良い壁は繰り返し塗り替えられる。次の作品が上がることは、この文化が正常に働いている証拠である。
依頼を受けた壁画も安全ではない。建物の所有者が変わったり外壁を補修したりすれば、契約とは関係なく消える。
正面から、曇りの日に撮る
正面から。 斜めから撮ると文字の比率が崩れる。グラフィティは文字のバランスが要の形式なので、角度のついた写真は作品を誤って伝える。通りが許す限り後ろに下がり、カメラの面を壁と平行に保つ。狭い路地では広角一枚より、重ねて複数枚に分けるほうがよい。
曇りの日に。 直射日光は壁面に強い影を作り、光沢のあるスプレー塗料では反射で色が飛ぶ。曇天の均一な光が壁の撮影には最も向く。晴れた日なら早朝か日没前の一時間がよい。
色を基準に露出を決める。 壁の撮影で最も失敗が多いのは蛍光色である。蛍光のピンクや黄色は簡単に白飛びするので、露出をわずかに下げて明るい部分を保つ。
壁だけでなく通りごと撮る
同じ壁を最低三枚残す。
- 全体のカット:作品全体が切れないように。
- 文脈のカット:面している通り、隣の建物、道路。あとから場所を特定できる情報はここに入っている。
- 細部のカット:署名、キャップの跡、色が重なった部分。作者を確認するときに決め手になる。
文脈のカットは写真として最も地味だが、資料としては最も長く役に立つ。
場所と日付が写真より重要なことがある
数年経つと「これはどこだったか」が最も多い問題になる。撮影直後に書き残すべきものは四つある。日付、都市と地区、可能なら正確な座標、そして壁の状態(描きたてか、すでにタグで潰されているか、部分的に消されているか)である。
スマートフォンは位置情報を自動で付けるが、多くのSNSは投稿時にそれを削除する。位置は別に記録しておくほうが安全である。Wallscape に投稿すれば写真と座標と日付が地図の上にまとまって残り、地図でその地区の他の記録とつながる。
作者は記す。分からなければ分からないと書く
多くの作品には署名がある。隅のタグ、Instagram のアカウント名、繰り返し現れるキャラクターが手がかりになる。読めるならそのまま書き写す。
読めないなら推測しない。作風が似ているという理由で有名な作家の名前を付けることは、記録を壊す最も早い方法である。「作者不明」と正確に記された記録のほうが、誤った名前の付いた記録よりはるかに価値がある。
撮影するときの作法
私有地には入らない。塀の内側、工事現場の中、廃墟の内部は撮影対象ではなく不法侵入である。制作中の作家に出会ったら、撮る前に尋ねる。顔が写ることを望まない人は多い。通行人が大きく写り込んだ場合は、投稿する前にもう一度考える。
写真の権利は誰にあるのか
一般に、壁画そのものの著作権は描いた作家にあり、写真の著作権は撮影者にある。個人的に撮って共有することはおおむね問題にならないが、商品や広告など商業的に使う場合は作家の許可が必要である。公共の場にある著作物をどこまで撮影し公開できるかは国ごとに規定が異なるため、商業利用を考えるならその国の基準を確認しておくほうが安全である。