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ポンペイの落書き79件、光で読み解く古代の日常
劇場を結ぶ通路に79件の新発見があった
イタリア南部ナポリ近郊のポンペイで、国際研究チームが未記録の落書き79件を確認した。CBC.caによると、調査計画「Bruits de couloir(通路のささやき)」は2022年と2025年に現地調査を実施し、壁に残る既知の碑文約300件も読み直した。
現場は、大劇場テアトロ・グランデと、音楽や朗唱に使われた小劇場オデイオンを結ぶ通路である。休憩中の観客だけでなく、商売をする人、兵士、奴隷身分の人、市民が行き交った。壁には冗談、悪口、愛の告白や絵が残っていた。ポンペイは西暦79年のベスビオ火山噴火で火山灰と軽石に埋まった都市である。
研究を調整したのは、フランス・パリのソルボンヌ大学のルイ・オタンとエロイーズ・ルテリエ=タイユフェールである。カナダのケベック大学モントリオール校で古代ローマ史を教えるマリー=アドリーヌ・ル・ゲネックも参加した。劇場の通路と庶民の宿泊施設にある落書きの類似が、日常の伝達手段を調べるきっかけとなった。
光の方向を変えると細い傷が読める
研究チームは反射変換イメージング(RTI)を使い、肉眼では判別しづらい線を調べた。同じ表面を照明の方向を変えて数十回撮影し、コンピューター上で仮想の光を動かして細部を確認する技術である。無作為な引っかき傷と見なされていた痕跡も、再検討の対象になった。
CBC.caによると、撮影にはフランス企業メルクリオ・イメージング製のドームを使い、通路内で夜間に作業した。今回の通路の分析には人工知能を使っていない。壁に実在する微細な痕跡を、照明条件を変えて観察することが解読を支えた。
ストリートアートを見る際にも、壁の表面と観察の条件は手がかりになる。目立つ大きな図像に加え、小さな線や重なった跡にも、その場所に人が関わった記録が残る。今回の発見は、そうした細部に目を向ける理由を示している。
愛の告白や船の絵が暮らしを伝える
落書きは、豪華な邸宅や公的な記録だけでは捉えにくい人々の生活を伝える。新たに確認された文には、エラトという人物への愛の告白がある。ル・ゲネックによると、書き手の名前は失われており、誰が告白したのかは分からない。言葉には庶民の俗語も含まれるという。
ル・ゲネックは、エラトが奴隷や解放された人々に見られる名前だったと説明した。ただし、名前の背景だけでエラト個人の身分を断定することはできない。残った文字が伝える情報と、欠けた部分のため分からない情報を分けて読む必要がある。
壁には剣闘士の戦い、肖像、動物、船、性器を描いた図像もある。ル・ゲネックによると、ローマ文化の性的な象徴は繁栄や豊穣とも結び付いていた。また、女性は碑文に登場する一方、死後の追悼の対象になる例は少なく、書き手としての例はさらに少ない。教育を受ける機会の違いも読み取れるという。
ポンペイの考古学者ジュゼッペ・スカルパーティは、古代の街が現在より海岸に近く、人々が見た船を描いたと説明した。街の壁を見る人にとって、図像と周囲の生活の関係を考える具体的な手がかりとなる。
デジタル公開は通路を観察する機会を広げる
研究チームは6月に公開デジタルプラットフォームを開設する計画である。CBC.caによると、通路の写真測量、高解像度のRTIデータ、碑文の全記録を組み合わせる予定だ。報道時点では計画として紹介されており、公開済みとは確認されていない。通路の見学時間や入場経路も記事には記載されていない。
ポンペイ全体では1万件を超える落書きが記録されている。ポンペイ考古学公園の総責任者ガブリエル・ツフトリーゲルは、この通路を古代世界の知識の空白を埋める重要な場所と評価した。
古代の書き込みと現代のストリートアートは、異なる社会の中で生まれた。それでも、誰が何を残し、壁の周囲でどんな暮らしが営まれたかを考える視点は共有できる。Wallscapeの地図で身近な作品と場所の関係をたどることもできる。
出典:CBC.ca